Naoto VS Rick Rock

Feb.2007 California

サーフボードのミーティングを兼ねて、2年ぶりにRICK ROCKの住む、カリフォルニア San Clementeを訪れた。 2月のカリフォルニアは、風は冷たいがパーカーと軽いジャケットで過ごせる温かさ。空気は乾いていてとても爽やかだ。高級住宅地が立ち並ぶ清楚な小高い丘に建つRickの自宅へ招かれインタビューは始まった。

Naoto Suzuki

Rick(以下R) 久しぶり!NAOTO!
NAOTO(以下N)2年ぶりの再会だね!
R よく来てくれた。今、ガレージでNAOTOのボードを制作中だよ!さぁ、ガレージに入って見てくれ。これが最新のマテリアル(素材)で出来たボードだよ!まずはボードを持ってみて。
N 凄い軽い!!何?!この軽さは!!
R これはEPSフォームと言って、最も軽量のフォームだよ。種類はUltra Light、Light、Standardの3種類がある。どのフォームも通常のボードに比べれば2〜3倍は強い!!
N こんな軽いボードは、持った事がない。こんなに軽くて強度があれば、理想の動きが出来そうだね。
R すでに、WCTのトップサーファーのほとんどは波が小さい時にEPSフォームのボードで戦っているよ。ボードの性能は実証済み!!特に小さい波では最高のパフォーマンスが出来るから、日本向きのボードと言えるね。
EPSフォーム

EPSフォーム

N 今回紹介してくれる最新素材は、さらに進化しているんでしょう?
R そうだよ!これからが本番の話だ!!(笑い)工程はレールにバルサを貼付けて、ボードに強度を付けるパラボリックストリンガー作り。この作業が大変なんだよ。ボードを1本仕上げるのに、丸一日は掛かるからね!このボードのモデル名は「R-TYPE Compositeアールタイプコンポジット」と名付けたからね!
N まさに手作り!!とても細かい作業で繊細なボード作りだね。
R その通り!!現在カリフォルニアでこのボードシステムを作れるシェーパーはほんの数人しかいない。やってみたいと考えているシェーパーはたくさん居るだろうけど、難しくて手間がかかるから出来ない。だいたい生産性も悪いし、採算が合わないだろう!!(笑い)
N じゃーなぜRickはこのボードを制作してるの?
R これからのシェーパーは、独自性と個性がより求められて行くと思う。自分はいち早く、新しい物「素材、デザイン」を求めて、トライして行きたいと考えている。いつも、いつも先を考えているから、このマテリアル、デザインとも出会えた訳だ!!分かるかいNAOTO?
N さすが職人魂!!何事も極めて行かないとなかなか、良いものには、出会えないからね!自分がRickのボードに初めて乗った時に、『このボードのシェーパーは最高だ』と確信を持てたのも、自分はサーフィンを極めているサーフィン職人だからRickに出会えた訳でしょ?!(笑い)

R NAOTOが自分のボードを、SURF SHOP reaLのカスタマーに、紹介してくれて、みんなに満足して貰っている事は、シェーパーにとって最高の喜びだよ!今後も新しいプランがいくつかあるから、楽しみにしていてくれ!!もっと驚くボードを提供していくからね!!

N それは、楽しみにしているよ!自分は今迄に、世界中の有名シェーパーのボードをたくさん乗って来たけど、その中でも、Rickのボードは最高級の域に達していると思うけど、今後独立とか、考えていないの?
R それは、よく聞かれる質問だけど、、。自分は物作りがとても好きなんだ。独立するのは、簡単だけど、数字、計算、請求書、納品書とか、そんな時間があったら、ボード作りにすべての時間を没頭したいよ!! 大体コンピューターを使って、メールとかした後は、シェープの感覚がずれてくる(笑い)そのくらい俺は疎いんだ(笑い)ただ今後、良いマネジャーが見つかれば考えて行きたいと思ってる。いま、メーカーが自分専用のシェープルームを確保してくれる予定なんだ。 そこは、いわゆる俺専用の研究室みたいな所。ここから、また新しいデザインを生み出して行くからね。期待していてくれ!時がくれば、独立は考えるつもりだよ。
N まぁ焦る事は何もないよね。それだけの実力があるんだから。ところで天井に掛かっているMR マーク リチャーズ(80年代に3度ワールドチャンピオンに輝いたオーストラリア伝説のサーファー、シェーパー)のボードはどうしたの?
R 3年前にスペインに仕事でシェープに出かけた時に、マーク リチャーズに出会ったんだ。そこで、彼に自分のシェープが認められてアメリカでMRのボードを監修して販売してくれないかと打診されたんだ。それでカリフォルニアへ戻って、 メーカーのボスに相談したら、即OKが出て、10日後には、マーク リチャーズ本人がアメリカへ来て契約となったんだよ。現在アメリカのMRのボードを自分が総監修している。だから、たくさんMRのボードがある訳。
N あの伝説のワールドチャンピオンサーファー、シェーパー、マーク リチャーズに認めらたのは、凄い事だね!!
R 人に認められると言う事は、とても嬉しい事だよ。ところで次のボードのプランだけど、今作っているRETRO TWINを進化させて、80’STWIN FINを作ろう!!このデザインは、Vボトムを強くして、アウトラインのノーズをスマートにしてあるから、動きが軽い、マニューバータイプのボードだよ!何本かテストしたけど、動きは軽快で調子いいよ!NAOTOが考案した80’sスラスターもいいね!!浮力を十分とってあるから、テイクオフは早いしマニューバーとスピード感が抜群だ!日本のWeakな波<力ない波>に最高に適しているはずだよ。つぎは、もう少しウイングを強くしてみようと思っている。日本へ戻ったら乗った感想を聞かせて。
N OK!感想を報告するよ。メールでね!(笑い)
R メールだけは、勘弁してくれ。キーボードを叩くのは、ボード作りより時間が掛かるから(笑い)

 

【インタビューを終えて】

この後も、レストランへ行き、Rickはビールを飲み始め、話は最高潮に盛り上がった。趣味のドラム、Skimボードなどなど、話は尽きない、 実にユニークで楽しい男だ。その反面、シェープに行き図まり、ディズニーワールドへFRPのモールド作りへ行った時の話など様々な苦難を 乗り越えて今のRickが形成されて来たのだと思った。一言一言が自信に溢れていて、深みがある。ただただ、ボード作りが大好きで、 欲がないシェーパー。アメリカ人には珍しく繊細で丁寧にボードを作る人をほかで見た事がない。Rickの仕事ぶりを見ていると、 本当に楽しそうでこちらまで楽しい気分にさせられた。笑いが絶えないのだ。(ジョークばかりだけど!)一度としてシリアスな顔を 見なかったのもシェーパーとして珍しい事。楽しい中に、丁寧で正確なボード作りを見て、このシェーパーなら信頼を置けると再確認した。
NAOTO

ハンドシェイプとコンピューターシェイプの違い!

California Surf Diary 2007年6月10日記事より(インタビュアー Tetz)

シェイパーとして知名度の高いRick Rockの独占インタビュー。 神の手とはRickの手の事を意味していたんだ!と初めて知りました。

Rick Rock

Rick,サーフボードを始めて削ったのはいつ?(Tetz)
4歳か5歳の頃に、お兄ちゃんが板を削るのを見ていたんだ。当時、兄貴は16歳で、折れたロングボードのフォームを 使いショートボードを削ったりしていた。その頃、兄の真似して落ちていた小さなフォームの切れ端からミニサーフボード を作って遊んでいたんだ。その板を水に浮かべて遊んでいた頃を思い出すね。サーフィンを初めて挑戦したのは8歳の時。

サーフィンに挑戦する前から板を削って遊んでいたとは夢がありますね。 本格的にはいつからシェイパーをしているのですか?(Tetz)
14歳の時に本格的にサーフボードを削り始めた、もう26年も前だね。(Rick)

え!僕がちょうど生まれた年からシェイプしているんですね!?サーフボードのシェイパーになろうと決めた理由は?(Tetz)
まだ小さかった頃、サンディエゴのオーシャンビーチに兄貴が住んでいて、そこに小さなサーフショップがあった、その裏にはシェイピング工場があって、 私はその裏のシェイピングルームには行かせてもらえなかった。(板をオーダーした人だけが許可されていた)ある日、シェイパーが真っ白になって サーフボードを奥のホコリだらけの部屋から持ってくる所を見て、”カッコイイ”、俺はあれがやりたいって決めたんだ。(Rick)

ハンドシェイプとマシンシェイプの違いって何?ハンドシェイプには何か利点があるの?(Tetz)
ハンドシェイプの利点は、新しいアイディアが頭を駆け抜けたとき、訓練を重ねた手でそのアイディアをそのまま形に出来る事。加工されていないブランクフォームから頭にあるアイディアをストレートに形にする、これは最高の感覚。ミュージシャンが頭に描いたミュージックをギターなどでオリジナルな曲を弾く。これと近い感覚があるのだと私は思う。

ハンドシェイプで削られる板は、エクストリームなオリジナルのデザインを作り上げ、新しいコンセプトを取り入れる事ができる、それは、Surf Skateを私がデザイン したときの様に。サーフボード製作の技術者として、私が今まで見たことのない形のサーフボードを作り上げる事から快楽を得る、開発する事が大好きなんだ。挑戦する事から始まり、思い道理の形にならない時もある、しかし、失敗を積み重ねて少しずつだが成功への道が開かれる。もしも挑戦しなければ絶対に方法は見つからない。最も大変な事は始める事。自分の描いたアイディアから板を作り上げた 職人は、新しいスタイルの板を作り上げる大変さを知っている。多くの職人が諦めてしまうような時も解決方法を探し続ける事の大切さ を知っている。その経験が無い技術者は、おそらく途中で辞めてしまう。常にいろいろな方法を考え挑戦する事が一番大切だ。私は誰よ りも早くサーフボードの開発に携わってきたため、誰よりも先を歩いている。これらは私がサーフボードに関心があるという事を証明し ている。 ハンドシェイプは新しいことに挑戦し、新しいアイディアを成長させる。コンピューターに任せてサーフボードを作る前に、 人間の手によって、プロサーファーなどと意見を交換し形にする事がハンドシェイプの特徴。 本物のシェイパーは、コンピューターを使わずにハンドシェイプで板を削ることが出来る、それが出来ないという事はシェイパーとして 恥ずかしい。Rockn‘Rollバンドのギタープレイヤーがギターは得意でないのと同じくらい。私は16000以上もの板をコン ピューター無しで削ってきた。私の手はその経験が積み重ねられていて、その事実をとても誇りに思っている。今では、どんな板も私の 手で削る自信がある。エアープレインウィング(飛行機の羽)でも、新しいデザインでも。カスタムボードのオーダーは、多くの場合コ ンピューターにはデータが無く手で形を作らなければいけない。RetroやOldschoolやTwinfinsやSinglefinは全てハンドシェイプで削る。(Rick)

コンピューターシェイプの利点は?(Tetz)
ハンドシェイプされた板と同じ板を機械の力で大量に削ることが出来る。コンスタントに同じレベルの板を削れる。でも、真のシェイパーは 機械がなくても削れなくてはいけない。(Rick)(マシンシェイプの欠点もRickは熱心に話していたが、この話はまた今度。)

もっと早く独立すべきだったと思う?(Tetz)
私はまだ独立の準備ができていなかった。それは、誰かのブランドの下でシェイプをする事で達成のできる、何かの可能性を信じていたから。 私はRD(Research Development)というポジションで、従来の型にははまらないスタイルのサーフボードを開発する担当にまでなった。 しかし、その生活には足りない物があった。(Rick)

Rickの夢、そして独立について?(Tetz)
私の夢は、愛する事をやり続ける事。皆のゴールは同じだと思う。それは、自分が情熱を燃やす分野での成功。自分のやっている事が本当 に大好きだったら成功する。私の場合は、スペシャルなサーフボード作り。私の目標は、スペシャルなサーフボード作りの達人として知られ、 ハンドシェイプで作られたスペシャルボードが多くの人に愛された時。サーファーは自分のマジックボードを誇りに思い、一生その板でサーフ ィンしたいと願う。その板は絶対に捨てない。私の削った板がそのように思って頂けた時、私はスペシャルな板を誰かに届ける事ができたと喜ぶ。 そして、持ち主はその板のシェイパーを大切に思う。このようになれば、私の努力が時間の無駄ではないと感謝する。
サーファーは特別な日にサーフボードを使う、そのスペシャルな日とは最も特別な、サーフィンをする日。それ以外の日は会社で仕事をしている。 休日はサーファーにとって人生で一番重要な時間、そして私はその彼らの大切な時間の一部となる。そんな彼らのスペシャルな時とシェイパー には重要な関係がある。私はこれらの事を何十年も続けた。

しかし、サーファー達は私の存在を知らない。それは、私が会社の下で、ブランドに隠れシェイプをしてきたから。この事実は本当に淋しく思う、 サーフボードを削りサーファーを手助けしてもサーファーは私を知らずに、感謝を私にではなく、私が働くブランドに目を向ける。もしも、 ブランドに感謝をしたサーファーが再度オーダーしても私がその板を削る保証はなく、その感謝を裏切ってしまっている。その様な状況では、 その板が機械によって削られたのか、それともサーフィンをしない人が削ったのか、誰が削ったのか、サーファーは知る事が出来ない。とても 調子の良いマジックボードと出会ったら、きっとそのサーファーはこの板は誰が削ったのだろう?会ってみたいな?このシェイパーはどんな曲が 好きなんだろう?何歳?レギュラースタンス??サーフィンするのかな?などと想像を膨らませると思う。
私の状況は私の未来に向けて進んではいなかった。私が仲間を助けるには、みんなからの助けも必要、それには、シェイパーとしての存在を世間 に出す必要がある。今後も一生シェイプを続けるために、私自身にチャンスを与えたいと思う。(Rick)

最近、話題になっている4フィンについて何か?(Tetz)
4フィンの板で、スプレイをより多く飛ばすにはどうすれば良いか研究している。スプレイはコンケーブとフィンとの関係が大きく、 大きなサイドフィンを使うとそのフィンにスプレイはブロックされる。ストレートにアップしているフィンは、より多くのスプレイが飛ぶ、 それはブロックされる面積が少ないから。4フィンはサイドに2本フィンがありスプレイをブロックする。波が良い日は4フィンよりも 3フィンの方を私は推薦する。WCTなどのトップサーファー達が4フィンの板をあまり大会で使わないのは、スプレイの出が悪いことが 一つの原因。波が小さい時やあまりコンディションが良くないときは4フィンで楽しめる。(Rick)

独立を境に新しいロゴを作るのですか?(Tetz)
実はもうサンプルが出来ている!今までずーと、私のサインはとてもクールだと言われていたんだ。そして、直人さんがカリフォルニア に来た時に、サインの事を言って頂き、サインをロゴに使おうと決心した。一番大きな理由はサインがブランドのロゴに使われていると、 その板の影にはシェイパーがいて、それは人の手によって創られている板だと分かる。サーファーとシェイパーの繋がりが大事だと私は思う。(Rick)